VisaとMastercard、シリアでの国際カード決済を15年ぶりに再開
合同会社Fujigoソフトウェアソリューション
M&C Holdings(日本)のメンバー

VisaとMastercardは、米国政府がシリアのテロ支援国家指定を正式に解除したことを受け、シリアでの国際カード決済サービスの再開を発表しました。15年間にわたる金融封鎖の終結は、単なる地政学的な出来事にとどまらず、紛争後の経済再建におけるグローバル決済インフラの役割を証明するものです。
歴史的経緯:15年間の金融孤立
2011年のシリア内戦勃発を受け、米国とEUはシリアを国際金融システムから切り離すための包括的な制裁を課しました。VisaとMastercardはシリアでの事業を停止せざるを得ず、シリア国民はグローバルな決済ネットワークから完全に排除されました。
この15年間、シリア国民は以下の手段に依存してきました:
- 現金(シリアポンドと闇ドル)
- ハワラシステム(仲介者を通じた非公式送金)
- P2P取引所経由のステーブルコイン(USDT、USDC)
カード決済の再開は利便性の問題にとどまりません。シリアが世界経済に再統合されるための第一歩なのです。
即時的な経済効果
1. 送金 — シリアの生命線
海外のシリア人ディアスポラ(推定800万〜1,000万人)からの送金は、シリアGDPの約20〜25%を占めています。2011年以前はWestern Union、MoneyGram、銀行送金経由で送金されていましたが、2011年以降は非公式ルートの利用により送金コストが10〜15%(通常は2〜3%)に高騰しました。
Visa/Mastercardの再開により:
- 送金コストが3〜5%に低下する可能性
- 処理時間が数日から数分に短縮
- 資金フローの透明化(マネーロンダリングリスクの低減)
2. 観光と貿易
シリアはダマスカス、パルミラ、アレッポなど豊富な文化遺産を有し、大きな観光ポテンシャルを秘めています。国際カード決済は観光産業の再建に不可欠な前提条件です。
3. インフラ再建
シリアの再建に必要な投資(推定4,000億ドル)に参加する国際請負業者は、より容易に支払いや受金ができるようになります。海外投資を呼び込むための重要な要素です。
課題とリスク
コンプライアンスとAML/KYC
シリアは今なおFATF(金融活動作業部会)の「高リスク管轄区域」リストに掲載されています。国際銀行はシリア関連のすべての取引について強化デューデリジェンス(EDD)を適用する必要があります。
VisaとMastercardは、シリアでカードを発行する銀行に対して以下を要求:
- 国際基準を満たすAML/CFTシステムの構築
- 疑わしい取引の報告(STR)
- 制裁スクリーニングの遵守
政治リスク
シリアの政治情勢は依然不安定です。クルド勢力が支配する東北部やイドリブ県(反体制派支配地域)では、カード決済が即座に導入されない可能性があります。
さらに、人権状況や治安が悪化した場合、米国が制裁を再適用する可能性があります。国際銀行は「逆統合」のシナリオ — 迅速な市場撤退 — にも備える必要があります。
技術インフラ
シリアの銀行システムは戦争中に甚大な被害を受けました。コアバンキングシステム、ATMネットワーク、POS端末の全面的なアップグレードまたは置き換えが必要です。
VisaとMastercardは、シリアのカード決済インフラを基本的なレベルで再構築するために2〜3年と5億ドルの投資が必要と推定しています。
日本とベトナムへの示唆
日本:ODAと再建支援
日本はシリア再建に向けた最大のODA提供者の一つ(2011〜2025年に推定100億ドルのコミットメント)です。カード決済の再開は、日本の建設会社(清水建設、大林組、鹿島建設)が再建プロジェクトに参加する条件を整えます。
日本のメガバンク(三菱UFJ、三井住友、みずほ)は新興市場での活動経験が豊富であり、シリアの国際金融システム再統合の橋渡し役を果たすことができます。
ベトナム:デジタル決済と紛争後再建
ベトナムは1975年以降、ゼロからデジタル決済インフラを構築した経験があります。シリアの教訓は、他の潜在市場にも適用可能です:
- ミャンマー(内紛中)
- アフガニスタン(タリバン政権樹立後)
- 制裁対象国(イラン、北朝鮮 — 情勢変化次第)
ベトナムのフィンテック企業(MoMo、VNPay、ZaloPay)は、国内での経験をいかしてこれらの市場に展開する機会があります。
結論
VisaとMastercardによるシリアでの決済再開は、金融インフラが経済再建と国際統合を推進する力強さを示すものです。ただし、その成功は政治的安定、厳格なコンプライアンス、長期的なインフラ投資にかかっています。
日本とベトナムにとって、フィンテック企業や銀行が新しい市場に展開し、国内経験とODAの役割を活かす機会です。シリアの教訓は、デジタル決済が単なる利便性ではなく、現代経済の基盤インフラであることを改めて思い起こさせます。
出典: Visa, Mastercard launch international card payments in Syria after US lifts terrorism designation — Reuters、2026年8月28日